トムラウシ夏山大量遭難2009/07/19 15:46

7月の大雪山系で、合計10名もの凍死者が出た。
低気圧通過にともなう強い風雨と気温低下が招いた結果だという。
過去にも、6月の雨の白馬大雪渓で凍死するなどの遭難例があり、
夏でも凍死がありうることはすでに常識でもある。
おそらくは、夏の高温向けに体を馴らした後だからこそ、
冬ならどうということもない低温で死にいたるのであろう。
筆者などは、秋山が嫌いである。
夏向けの体のままで低温にさらされるので、
とにかく寒いのである。

旅行会社が主催する中高年向けの登山ツアーが人気を呼んでいる。
お金とヒマがある人々が山登りに目覚め、
100名山を札所めぐりのお遍路さんのようにたずねて歩くのであろう。
別に悪いことではないが、
何か危なっかしいものを感じていたのは筆者だけではないであろう。
そもそも、山歩きの力量が読めない客を大量に連れて登山をすること自体がおそろしい。まして、そこには旅行社のスケジュール優占のポリシーが働いている。
客の多くも、団塊世代で頑張ることにかけては人後に落ちない、
引き返すことを知らないタイプである。

スイスやフランスの山岳ガイドは権威性が高く、
山岳学校などの養成過程も厳しいカリキュラムと試験があって、
さらに、長い歴史がある。
天候が悪化したり、客の力量が足りないと判断すれば、
遠慮会釈なく引き返してしまう。
この制度を利用して、
客の足下を見るような悪徳ガイドもいるということである。
一方日本の場合は、ガイド制度そのものが未整備であり、
ガイドの権威性と自信も極めて低い状態である。
雇い主である旅行社と客の意思に振り回されることが考えられる。

トムラウシ夏山大量遭難(2)2009/07/19 16:13

今回の遭難パーティーのうち、
大量8名もの死者を出したアミューズとラベル社は老舗の
山岳ツアー会社である。
阪急トラベルや交通公社とは違う。
山岳部や山岳会あがりの人たちが興した会社のはずである。
そういう意味では、今回の事件は意外でもあった。

しかし、新聞で報道されているガイドの判断や挙動を見ると、
とても老舗の山岳ツアー会社とは思えないひどい対応である。
創設当時の志が商業主義で捻じ曲がった、
あるいは、会社が肥大化する中で山との付き合い方を
忘れてしまったとしか思えない。

新聞からは読み取れないが、
この時期、かなりのパーティーが同じ山域に入山していたはずである。
それらの多くは、無事に下山している。
そのまま先に進んだのか、あるいは、引きかえしたのか、
はたまた、避難小屋で停滞したのか、様々な判断があったであろうが、
これら無事に下山した人々の数と行動を知りたいものである。

トムラウシ夏山大量遭難(3)2009/07/19 16:27

おそらく、アミューズとラベル社は倒産するであろう。
被害者への補償や、刑事罰を考えれば、
そうなる可能性が高い。
これを契機として、日本の山岳ツアーを主催する旅行社のあり方、
ガイド制度のあり方が大きく見直されることを願う。

同時に、
お金を払って連れて行ってもらう山登りでは、
登山者の力量はさほど向上しないことも広く知られてほしいことである。たとえ、日本100名山を完全踏破したとしても、
ついて回りのガイド登山では山登りの力はさほどつかないのである。
また、お金にまかせて高性能の道具やウエアに身を固めて登る山登りもまたしかりである。
山登りとは、生身の肉体と自然との対話である。
文明の枠組みでスポイルされた心と体を癒し、
動物種としての本性を少しでも呼び戻すことによって
生きることの意味を確かめる、
そういうプロセスでもあると思うのである。
だから、今回の判断にしても、撤退だけが良い判断ではない。
自らの力量を見極め、クリアできると判断して登り続けるのも立派な判断である。この日のトムラウシには、
そうした登山者、パーティーもいたのではないかと思う。
これは山登りに限ったことではない。
なんでもお金の力で買うことが出来る世の中になって、
大事なことがたくさん見落とされているのである。