第6次エネルギー基本計画(案)パブコメ意見書2021/09/29 23:46



経産省が3年ごとに改定作業を行ってきたエネルギー基本計画だが、今回は全く奇妙な計画(案)である。126頁もの大作だが、言ってみれば、まるでキメラのような支離滅裂の計画書となっている。従来はエネ庁が各種業界、とりわけ電力業界や石炭石油業界などエネルギー関連業界との事前すり合わせで調整された計画書が準備されてきた。しかし今回は違った。昨年(2020年)10月、菅首相の国会での突然の温暖化対策に関する2050年カーボンニュートラル(CO2排出量ゼロ)、2030年温暖化ガス46%削減(2013年起点)宣言が発表されたのである。この目標が温暖化防止の目的達成に対して十分なわけではないが、従来の削減目標(26%)と比べれば大盤振る舞いである。内閣府のホームページは「もはや環境対策は経済の制約ではなく、社会経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となるものです。まずは、政府が環境投資で大胆な一歩を踏み出します。」「グリーン成長戦略では、2050年に向け、技術革新を通じて今後の成長が期待される14の産業において、高い目標を掲げた上で、現状の課題と今後の取組を明記しました。予算、税、規制改革・標準化、国際連携などあらゆる政策を総動員して、しっかりと取り組んでまいります。」とハイテンションである。しかし、経産省には具体的に目標を達成するための施策も志もなかったのではないだろうか。あるいは、すでにエネルギー業界とのすり合わせが済んでいて、突然の温暖化ガス削減目標大幅アップとの整合性がつけられないままに、お題目だけ並べてお茶を濁したということなのかもしれない。

第6次エネルギー基本計画(案)パブコメ意見書2021/09/29 23:49

1)福島第一原発事故を教訓とするなら原発ゼロ以外にない
本文冒頭で(P7)「今年、我が国は、東京電力福島第一原子力発電所事故を含む東日本大震災から10年を迎えた。東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に
銘じて、エネルギー政策の再出発を図っていくことが今回のエネルギー基本計画の見直しの原点となっている。」と述べているが、「反省と教訓を肝に銘じて」とするのであれば、原発の再稼働は全て停止し、原発ゼロに舵を切るべきである。そもそも、事故後10年を経てなお放射能汚染は続き、多くの避難者の塗炭の苦しみが続いている。多くの人々の生命と健康と心安らかな日常や生業を奪ってしまった政府と東電の責任は未だ果たされていない。本計画書における、このことに対する謝罪と反省も全く不十分である。

第6次エネルギー基本計画(案)パブコメ意見書2021/09/29 23:50

2)2030年の電源構成について(P105など)
再エネの目標は、既存の22-24%と比べれば、36-38%と増加したものの、これは既にドイツが2020年時点で達成した数値である。スペインの74%、ドイツや欧州連合の65%、米カリフォルニア州の60%などの目標と比べて低水準である。このため、原子力は20-22%、石炭火力は19%と、旧態依然の目標値が並ぶ。とりわけ原子力の20-22%は現行目標を維持した数字である(現状実績は6%)。現存する原発がフル稼働する計算になり、非現実的である。また、原発依存度を可能な限り低減するという政府方針にも反する(P7やP25の記述とも矛盾)。石炭火力を26%から19%にしたのは、2030年までにこれを全廃する先進国が多い中で、後ろ向きである。これでは2030年CO2削減目標として掲げた46%の実現は無理である。キメラ的支離滅裂とはまさにこのことなのである。

第6次エネルギー基本計画(案)パブコメ意見書2021/09/29 23:51

3)再エネを最大限・最優先で導入するための制度改革が不十分
再エネのような分散型の新規電源を大量導入するには、連系線や周波数変換所の大幅増強、送電網の開放など新規参入電気事業者を支援することが欠かせない。しかるに現状は、動いてもいない原発の稼働時の送電容量を確保して再エネ電源の接続を拒否したりするといった事態や再エネに対する出力抑制などが頻発している。一方、ドイツでは再エネ電源の接続は最優先で保護されている。
送電網増強(P55など)も一定程度述べられているが、不十分である。再エネ電力の出力抑制に対する補償や給電順位の改正など、燃料費がゼロの変動性再エネを公正に扱う抜本的な制度改革が求められる。そもそも送電網の増強やグリッドシステムの強化は、福島事故発生直後から取り組まなければならない課題であった。それを放置してきたのは、政府と官僚(経産省)の怠慢であり、反省すべきである。

第6次エネルギー基本計画(案)パブコメ意見書2021/09/29 23:52

4)火力発電を維持する方針が長期戦略として明確化されているのは根拠が乏しく誤りである
その手段としてCCS(炭素回収・貯留)を含む脱炭素火力、その燃料ともなる水素・アンモニアなどが提案されている。しかし、これらの技術は現時点で商用化されているわけではなく、技術的・コスト的に実現性は危うい。欧州連合や国際エネルギー機関の将来シナリオを見ても、脱炭素火力に電源構成の数十%を期待するといったものは見られない。