語り継ぐ戦争2020/05/10 18:22

朝日新聞名古屋本社版に連載の伊藤智章記者による「語り継ぐ戦争99回」に大沼ファミリーの戦後史が登場しました。
朝鮮動乱前夜に始まった、日本のレッドパージでは、共産党員及びその支持者という理由で、官民合わせて1万数千人が不当解雇されました。米ソ冷戦の開始とともに、アメリカで吹き荒れたマッカーシー上院議員提唱の赤狩りが日本にも及んだものです。
現在では知る人が少なくなっていますが、この国の民主主義の歴史において記憶するべき大きな汚点です。教科書にも記載されるべきだと思います。
アメリカの赤狩りでは、ハリウッドも例外ではなく、多くの映画監督や俳優たちも職を失いました。メキシコの鉱山争議を扱った映画「地の塩」は、そうした監督の一人がメキシコで出会った争議を題材とし、鉱山労働者とその妻たちが俳優として画面に登場しています。チャップリンもハリウッドを追われた俳優の一人です。

パブコメを出そう!福島第一原発から汚染水を流すべきではない2020/05/11 12:28

1)そもそも福島第一原発は放射能の追加放出の権利など無い
 放射能量をよう素換算したINES(国際原子力指標尺度)評価によれば、福島第一原発事故で東電は90京Bq(=900ペタBq)(1京=1万兆または10ペタ)の放射能を放出して太平洋と17都県の陸地を過酷に汚染した。世界中の原発が通常運転時に排出している全ての放射能の合計値をはるかに超える放射能を出してしまったのである。その事故炉が事故前の基準に則って年間22兆Bqのトリチウムを流してよいなどと主張することが許されるわけがない。まして、ストロンチウム-90などの核種を告示限界濃度以内なら流してよいなどと言えるわけがない。

2)ロンドン条約の精神に違反する
 「御意見を伺う場」の席上、福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は、「地元の海洋を利用し、その海洋に育まれた魚介類を漁獲することを生業としている観点から、海洋放出には断固反対であり、タンク等による厳重な陸上保管を求める」と述べた。また、福島県森林組合連合会および福島県農業協同組合中央会の代表も、大気放出、海洋放出双方に反対の意見を述べた。こうした中で、福島市の木幡浩市長が「福島と名前の付かないところで海洋放出してほしい」、「巨大なタンカーで持っていき、できるだけ影響の少ないところですべきだ」と発言したことが報道された。これに対して資源エネ庁ALPS小委員会のは「海上からの放射性廃棄物の海洋投棄は、ロンドン条約及び原子炉等規制法により禁止されている」と回答している。
ロンドン条約は、海洋汚染を防止するための国際条約である。この条約名を聞くと、し尿の外洋投棄のことを思い出す。愛知県にはし尿投棄船の母港が2か所あった。津島市の日光川河口と、西尾市の平坂入江だ。愛知県内だけでなく、遠く京都などからも運ばれてきていたようである。この船は、伊勢湾口を出て、黒潮本流に投棄していたのだが、燃料代をケチって近場で栓を抜くというような不祥事もあり、何度か摘発されていた。この外洋投棄は、ロンドン条約で制限され、ついには全面禁止になって途絶えた。
外洋投棄がだめなものを、沿岸から放流するなら良いというのは全く変な話である。沿岸でやってはいけないから、外洋だけ例外として許されていたのである。ロンドン条約で海洋投棄が禁止されている放射能汚染水を岸から流してはいけない。

3)放流されるのはトリチウムだけではない
 2年前の公聴会で明らかになったことは、処理水にはALPSで処理できないトリチウムだけが含まれているのではなく、原子炉等規制法で定められた基準を超える他核種が複数含まれていることであった。素案では、トリチウムを除く核種の告示濃度限度比総和が1未満になるまで二次処理(ALPSにもう一度通す)してから放出するとしている。汚染水中のある核種の濃度を告示濃度限度で割り算し、他の全ての核種についても計算して、その総和が1を超えないようにするということである。とりわけ問題なのは半減期29年で生物蓄積性の高いストロンチウム-90を全ベータ測定で5Bq/L(告示濃度限度は30Bq/Lなので、濃度限度比0.17相当)まで許容していることである。
 そもそもALPSの処理能力や処理水のチェックは万全なのだろうか。ガンマ線を出さないトリチウムやストロンチウム-90の測定は簡単ではないので、検出限界や測定頻度が放出のペースに対して間に合うのだろうか。ウソやトリック満載の東電や経産省のことだから信用できない。
 さらに、ALPS処理で発生する高濃度スラッジと高濃度に汚染したカートリッジの発生量は膨大なものになっていて、その置場と管理状況についても注視していく必要がある。東電と経産省は、この廃棄物に関する情報を公開するとともに、その見通しについても明らかにするべきである。

パブコメを出そう!福島第一原発から汚染水を流すべきではない(2)2020/05/11 12:32

汚染水の海洋拡散シミュレーションについての疑問点

 東電素案では、1500Bq/Lまで希釈した汚染水を1年間流し続けたと仮定して、大型コンピューターで汚染水の拡散状況を計算した結果、トリチウムが1Bq/Lを超えるのは福島第一原発の地先海域を少しふくらませた範囲にとどまるとした図が示されている。
 この計算について超党派議員連盟である原発ゼロの会などが東電に3回にわたる質問書を送ってわかってきたことは以下のとおりであった。

1)「素案で示したのは、長期間放出を続けて、準定常状態になった時の汚染分布図」だと回答している。コンピューター上で、数百回(1年間なら約700潮汐)の潮汐を繰り返させた結果であろう。
 漁民や市民が懸念しているのは、こうした平均値ではない。1日に2回起きる潮汐でも大きさが異なる(春夏は昼に大きく引き、秋冬には夜に大きく引く)。大潮と小潮では干満差が全く違う。黒潮の蛇行も季節変化や年変化が大きい。風の影響、降水量の影響(主として流入河川の影響)なども大きく、沿岸流の方向は逆転することも頻繁に起きている。こうした環境要因の変動ごとに、放出される汚染水塊がどのように拡散するかが知りたいのである。淡水同士でさえも、水塊の混合は簡単ではない。

2)そもそも、600kmx500kmという広い海域について、1km四方のボックスを仮定したモデルで計算し、その結果を福島沿岸域だけ拡大してみせたところに間違いがある。福島沿岸域数10kmに限定した拡散計算を改めてする必要がある。

3)「放出初期条件は、1km x 1km x 7mのボックスを仮定した」としているが、そもそもこのような大きなボックスに汚染水が均等に混合されて、そこから用意ドンで拡散が始まるとした仮定には大きな無理がある。放流条件の検討をすることなしに拡散計算をしたと言わざるを得ない。前項で述べたように、沿岸域数10kmに限定し、放流条件を吟味し、10m四方、あるいは100m四方のボックスを仮定して再計算が必要である。その際、1項で述べたように、平均値でなく、様々な環境要因の変動を考慮したケース毎の計算結果を示すべきである。

4)以上のような注意を払って計算しても、拡散シミュレーションの精度はけっして高くはない。少なくとも複数のモデルで計算して、比較すべきである。また、シミュレーションの確度を保証するのは実測データによる検証であり、パラメーターフィッティングである。その実測データ(素案ではCs-137観測値) の観測頻度、観測網の密度が不足している。鉛直方向の観測も不十分である。

5)海洋拡散モデルには、海洋生態系を組み込んだものが多数提案されている。トリチウム以外の核種はプランクトンに取り込まれて、沈降したり魚に摂食されたりして複雑な挙動をする(トリチウムについても、濃縮・蓄積を示唆する報文もある)。「告示比総和1未満」が安全性を保証するものではない。これらのことについても、再検討が必要である。

パブコメを出そう!福島第一原発から汚染水を流すべきではない(3)2020/05/11 12:34

1)公聴会でなく参加者限定「ご意見伺う場」ではいけない
 「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(以下ALPS小委員会)は、海洋や大気へ放出することが現実的であり、海洋放出の方が確実に実施できるとする報告書を今年2月にまとめ、これを受けた経産省は、4月6日と13日に福島市および富岡町で「関係者の御意見を伺う場」を開催し、経産省が指名した自治体や産業団体などの代表からの意見を聴取した。一般市民の参加を拒否したのである。3年前(2017年8月)はALPS小委員会が公聴会を実施し、漁業関係者も含めた多くの参加者から「陸上長期保管を行うべき」という意見が表明されていた。しかし陸上保管案についてさしたる審議をしないまま、海洋又は大気放出案に絞り込まれて、参加者限定の「伺う場」が設定されたのであった。そして、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案(以下「素案」と略記)」が発表された。新型肺炎コロナウィルス禍をよいことに、拙速に広く国民、市民の意見を聴くことなく重大な決定をしてはならない。

2)トリチウムの総量は2000兆Bq超である
 東電素案に対して環境NGO・FoEや超党派議員連盟・原発ゼロの会からの数度にわたる質問状が出ており、これに対する回答の中から新しいことがわかってきた。タンク内に貯蔵されたトリチウムの総量は860兆Bqであるが、原子炉建屋内に存在する汚染水中のトリチウムを加えると2000兆Bqを超えるのである。このうちとりあえず、放出を予定しているのはタンク内の860兆Bqだ。事故以前のBWRのトリチウム放出量管理目標値は1基当たり3.7兆Bq/年なので、第一原発6基分で22兆Bq/年の排出権があると考えているようだ。海洋放出の場合、海水中のトリチウムの告示濃度限度(水1L中6万Bq)に対して、「地下水バイパス」及び「サブドレン」の運用基準(水1L中1,500Bq)を参考に検討するとしている。つまり、6万Bq/Lが基準だが、1500Bq/Lに希釈して流すからいいだろうというわけである。

3)しかし、事故前のトリチウム放出濃度は1Bq/L以下だった
 事故前の福島第1原発で6基がフル稼働していれば、温排水は毎秒400トンほどである。木曽川の渇水期の河川維持流量が今渡頭首工で毎秒100トン、馬飼頭首工で毎秒50トンであることと比べると水量の多さを実感できる。この温排水で希釈されていたので、目標値である年間22兆Bq放出しても実質濃度は1~2Bq/L程度、実際の放出総量実績(2010年)2.2兆Bqなら0.1~0.2Bq/Lに過ぎなかった。このことを言わないで、すまし顔で6万Bq/Lのところ1500Bq/Lに希釈しますというあたりが不誠実なのである。

4)30年間流しっぱなし
 860兆Bq(平均トリチウム濃度約70万Bq)を年間22兆Bqずつ流すとすると、単純な割り算で36年間かかることになる。トリチウムの半減期が12.3年なので保管中も減衰するので放出期間は短くなるようにも思われるが、1000兆Bq超の原子炉建屋中のトリチウムがなおも汚染水となって出続けるので放流期間の短縮は望めない。毎秒0.5立米ほどの汚染水が出続けるのである。この事に対する国民への情報提供は不十分である。

5)汚染水は放出せず、少なくとも100年間以上陸上保管すべきである
 汚染水は10万トン級の大型タンク、またはモルタル固化による半地下方式で陸上保管すべきである。この事は民間シンクタンクである原子力市民委員会が具体的な検討のもとに提案している。そのためのスペースは第一原発敷地内の北側「土捨て場」とされているところに十分にある。さらに、原発サイトを囲んで16平方キロの広大な中間貯蔵施設用地がある。大熊町民から自分の土地を提供しても良いという声も上がっている。123年間保管すれば、トリチウムは1000分の1まで減衰する。

パブコメを出そう!福島第一原発から汚染水を流すべきではない(4)2020/05/11 12:37

トリチウムをめぐる茶番劇
 2020年2月12日の福島民友に「風評の深層・トリチウムとは~眼前に「処理水」・・・77万ベクレル」 という記事が掲載された。記者が東電福島第一原発の分析棟を訪問し、資源エネルギー庁の木野正登対策官から説明を受けたとのことだ。記事は以下のとおりである。「処理水を入れたビーカーの水面に検出器を近づけ、処理水から放出される放射線量を測ったところ、検出器の針はほとんど振れない。分析棟内の空間線量とほぼ同じ毎時0.04μSvだった。」
これと同じシーンが2020年2月26日、IAEAのグロッシ事務局長が東京電力福島第一原発を視察した時に再演された。画面から推測すると、この時の測定器は日立アロカメディカル製のTCS-172Bだったものと推定される。すなわちガンマ線を測る測定器であって、ベータ線は検知できない。77万Bq/Lあろうとも、検知できない測定器で針は振れない。トリチウム水など恐れるに足りないことを演出した茶番劇だったと言わざるをえない。このような不誠実な演出をした資源エネルギー庁及び東電を国民、市民は到底信用できない。