「ため池観察ガイド」の出版 ― 2007/09/20 23:49
ため池の自然研究会の精鋭メンバーとともに、ささやかな本を制作・出版した。
「ため池観察ガイド」(中日出版)
A5版、168頁(定価:税込みで1500円)
まずは、「はじめに」を読んで、心が動いたら買って欲しい。
<はじめに>
ため池は、そのまんまで水辺の自然博物館である。多様な生き物たちのハビタット(棲みか)であり、シアター(劇場)だということもできるだろう。その生き物たちの多くは、かってはこの日本列島のどこにでも棲んでいた。しかし、今では絶滅が危惧される種としてレッドリストに挙げられているものも少なくない。すなわち、ため池は絶滅寸前の生き物たちを保護してきたシェルター(避難場所)でもある。
ユーラシア大陸の東の端に浮かぶ美しい島国に稲作がもたらされて以来、人々の知恵が積み重ねられ、自然の営みと共存しながら生活する技術のひとつとして生み出され、守られてきたのがため池である。まさに究極のサステーナビリティ(持続可能性)であり、未来の人々へきちんと受け渡していかなければならない貴重な遺産である。すなわち、ため池は歴史・文化博物館であるとも言えよう。
人は水辺に立つと心が癒される。私たちの遠い祖先が海から出発したからかもしれない。ため池の多くは人里の近くに築造されてきたために、今では多くの市民が生活する場の近くに存在するものが多い。それゆえに、ため池は市民にとっての身近な水辺空間として貴重な役割を果たしている。周辺の林を含めた里山・ため池空間はヒートアイランドと化した都市の暑熱を緩和するオアシスともなっている。大雨が降ったときに河川へ流出する雨水を一時的にため込んで出水を遅らせる防災機能も重要なものである。
しかし、大型の農業用水の建設や水田農業そのものの衰退、あるいは都市化の流れの中で、ため池は利水施設としての存在価値を失い、そこに棲む生き物たちとともに次々と姿を消しつつある。
ため池の数は、どのくらいあるだろうか。数え方や、調査した時期によって変化しているので正確な数はわからないが、全国で約20万ヶ所を少し超えるくらいあると推定されている。ずいぶん減ってしまったが、なんとか生き残っているのがこの数である。いったん潰されてしまったら二度と復活させることが難しいため池を守るために、ようやく確かな動きが始まっている。汚されたり、ゴミが投棄されたりしてひどい状態になっているため池を清掃する活動が各地で芽生えている。農業基本法や河川法に環境条項が加えられたのを受けて、ため池保全条例、要綱、構想など、ため池を守るための法的整備、あるいは行政的な施策展開も各地で始まっている。閣議決定された生物多様性国家戦略の中にも、ため池が生物多様性を支える重要な空間であることが述べられている。しかし、これらの動きもため池の消滅にブレーキをかけるところまではいっていない。
1982年、名古屋で発足した「ため池の自然研究会」は、こうしたため池の置かれた危機的状況を危惧する、主としてため池の生き物たちに関する調査研究を行う研究者、ため池をフィールドとした各種の教育を行うワーカー、市民らの集まりである。ため池の多面的な価値、とりわけ生物多様性に富む水辺空間としての価値にいち早く気がつき、会誌「ため池の自然」の発行や出版物の刊行、研究発表会や観察会などを通じて、ため池の重要性を世に問い続けてきた。
その活動の一環として、昨年は名古屋市の環境学習センタ-「エコパル」からの依頼を受けて、ため池をフィールドとした野外体験型環境学習プログラムを作成した。
本書は、このプログラムの開発に関わったため池の自然研究会員有志に新たに複数の動植物研究者が執筆者として加わり、より一般性の高いため池調査ガイドブックとして企画・制作されたものである。ため池をフィールドとして、あるいは、題材として具体的に調査しながら学ぶためのガイドブックである。本書は、ため池を様々な側面から調査しながら、調査するもの自身がため池に学んでいくことを意図して構成されている。学校の教師、環境学習や生涯学習のリーダが教育プログラムとして使っていただいても良いし、個人やグループが独自に調査マニュアルとして使ってくださっても良い。各単元毎で完結するように書かれており、全体として重複する記載があることをお断りしておきたい。
執筆者が名古屋を中心にした愛知県在住者に偏っているために、具体例として選ばれたため池はこの地域に限られているが、他の地域でも応用できるように普遍性を持たせて記述したつもりである。
この小著がため池の価値と役割の大きさを認識し、ため池の潰廃にブレーキをかけていく仲間を一人でも増やすことに寄与することを願って・・・
編者 大沼 淳一
土山 ふみ
「ため池観察ガイド」(中日出版)
A5版、168頁(定価:税込みで1500円)
まずは、「はじめに」を読んで、心が動いたら買って欲しい。
<はじめに>
ため池は、そのまんまで水辺の自然博物館である。多様な生き物たちのハビタット(棲みか)であり、シアター(劇場)だということもできるだろう。その生き物たちの多くは、かってはこの日本列島のどこにでも棲んでいた。しかし、今では絶滅が危惧される種としてレッドリストに挙げられているものも少なくない。すなわち、ため池は絶滅寸前の生き物たちを保護してきたシェルター(避難場所)でもある。
ユーラシア大陸の東の端に浮かぶ美しい島国に稲作がもたらされて以来、人々の知恵が積み重ねられ、自然の営みと共存しながら生活する技術のひとつとして生み出され、守られてきたのがため池である。まさに究極のサステーナビリティ(持続可能性)であり、未来の人々へきちんと受け渡していかなければならない貴重な遺産である。すなわち、ため池は歴史・文化博物館であるとも言えよう。
人は水辺に立つと心が癒される。私たちの遠い祖先が海から出発したからかもしれない。ため池の多くは人里の近くに築造されてきたために、今では多くの市民が生活する場の近くに存在するものが多い。それゆえに、ため池は市民にとっての身近な水辺空間として貴重な役割を果たしている。周辺の林を含めた里山・ため池空間はヒートアイランドと化した都市の暑熱を緩和するオアシスともなっている。大雨が降ったときに河川へ流出する雨水を一時的にため込んで出水を遅らせる防災機能も重要なものである。
しかし、大型の農業用水の建設や水田農業そのものの衰退、あるいは都市化の流れの中で、ため池は利水施設としての存在価値を失い、そこに棲む生き物たちとともに次々と姿を消しつつある。
ため池の数は、どのくらいあるだろうか。数え方や、調査した時期によって変化しているので正確な数はわからないが、全国で約20万ヶ所を少し超えるくらいあると推定されている。ずいぶん減ってしまったが、なんとか生き残っているのがこの数である。いったん潰されてしまったら二度と復活させることが難しいため池を守るために、ようやく確かな動きが始まっている。汚されたり、ゴミが投棄されたりしてひどい状態になっているため池を清掃する活動が各地で芽生えている。農業基本法や河川法に環境条項が加えられたのを受けて、ため池保全条例、要綱、構想など、ため池を守るための法的整備、あるいは行政的な施策展開も各地で始まっている。閣議決定された生物多様性国家戦略の中にも、ため池が生物多様性を支える重要な空間であることが述べられている。しかし、これらの動きもため池の消滅にブレーキをかけるところまではいっていない。
1982年、名古屋で発足した「ため池の自然研究会」は、こうしたため池の置かれた危機的状況を危惧する、主としてため池の生き物たちに関する調査研究を行う研究者、ため池をフィールドとした各種の教育を行うワーカー、市民らの集まりである。ため池の多面的な価値、とりわけ生物多様性に富む水辺空間としての価値にいち早く気がつき、会誌「ため池の自然」の発行や出版物の刊行、研究発表会や観察会などを通じて、ため池の重要性を世に問い続けてきた。
その活動の一環として、昨年は名古屋市の環境学習センタ-「エコパル」からの依頼を受けて、ため池をフィールドとした野外体験型環境学習プログラムを作成した。
本書は、このプログラムの開発に関わったため池の自然研究会員有志に新たに複数の動植物研究者が執筆者として加わり、より一般性の高いため池調査ガイドブックとして企画・制作されたものである。ため池をフィールドとして、あるいは、題材として具体的に調査しながら学ぶためのガイドブックである。本書は、ため池を様々な側面から調査しながら、調査するもの自身がため池に学んでいくことを意図して構成されている。学校の教師、環境学習や生涯学習のリーダが教育プログラムとして使っていただいても良いし、個人やグループが独自に調査マニュアルとして使ってくださっても良い。各単元毎で完結するように書かれており、全体として重複する記載があることをお断りしておきたい。
執筆者が名古屋を中心にした愛知県在住者に偏っているために、具体例として選ばれたため池はこの地域に限られているが、他の地域でも応用できるように普遍性を持たせて記述したつもりである。
この小著がため池の価値と役割の大きさを認識し、ため池の潰廃にブレーキをかけていく仲間を一人でも増やすことに寄与することを願って・・・
編者 大沼 淳一
土山 ふみ
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